[まとめ記事] VMwareに負けつつあるRed Hat

ぱくたそ素材

Red Hatを買収したIBMの思惑に反して、Red Hat関連ビジネスが伸びていません。

Red Hat自身の業績は好調だと謳っていますけど、Kubernetesエコシステムの勢いを考慮すれば当然の結果です。

私が見るところでは、下手するとこのままVMwareが押し切る可能性もあります。永年の両社の競合関係に決着がつく訳です。

今回はどうしてそのような見通しを持っているのか、根拠を説明させて頂くことにします。

OSS系OSベンダの弱み

VMwareは、Windows PCやMacintosh上でLinux実行環境を提供する仮想化ソフトウェアベンダとして始まりました。一方でRed Hatは、Linuxコミュニティが開発したソースコードを商用ソフトウェアとして販売するOSSベンダとして始まりました。

お互いに同じようなビジネスを手掛ける競合ITベンダが存在しましたけど、VMwareはEMCに買収されてPCサーバ環境の仮想化ビジネスへ進出しました。そしてRed HatはLinux本体以外のソフトウェアを扱うことにより、SuSEなどのライバルよりも急成長しました。

そして2008年頃から、両社は本格的な競合関係に突入します。VMwareはRed Hat不要のVMware ESX/ESXiを商品化しました。そしてRed Hatはスタートアップ買収により、サーバ仮想化機能のKVMを提供開始しました。

両社共にバブル崩壊による顧客のIT予算削減やPCサーバ高機能化の恩恵など​を受けて、全社売上は急成長を続けました。そして2010年頃を過ぎると、PaaSソフトウェアのOpen ShiftとCloud Foundryを提供開始しました。

この頃はOpenStackなどのITプラットフォーム仮想化ソフトウェアも登場し、VMwareは将来性を危ぶまれるような状況でした。幹部離脱が話題になったのも、この頃です。そこで2012年にVMwareは「全ITの仮想化」を経営ビジョンとして掲げてNicira(今日のVMware NSX)を買収しました。

一方でCephというSDS系OSSを買収するなど上手に立ち回ったRed Hatですが、ここで密かに致命的な問題に遭遇しました。Linuxが主要ビジネスであるものの、Intelなどの有力ベンダがLinux開発者の引き抜きを始めたのです。

OSS開発者といえども給料は必要だし、夜中や休日だけの趣味プログラミングではOSS最前線に立てません。そしてLinux開発者は、Linuxを深く理解しているが故に存在価値があります。だから転職しても、Linux開発を続けようとする訳です。

つまり遅かれ早かれLinuxが主要OSとして成長するにつれて、Red HatはLinux開発者を引き抜かれると同時に、彼らへの影響力を失う運命にあったのです。それを現在でも主力ビジネスとして成長させ続けて来たのだから、その運営手腕は大変見事です。

またRed HatはLinux OSビジネスだけでは企業として成長できないことを見抜いており、OpenShiftは自社で開発者を抱え込むスタイルでビジネスを展開しました。これがIBM買収の契機にもなりました。さすがに経験豊富なベテラン揃いで、立ち回りがスムーズです。

ただし ….. Linux OSS開発の主導権を失ったのは、密かにボディブローのようにジワジワと足回りに影響し続けています。また同時に、OpenShiftをRed Hat/CentOS前提として商品提供したのも痛かったです。

なぜならVMwareの主力製品であるVMware ESXiは、独自にカスタマイズした軽量Linuxで動作します。だからESXi側のニーズに応じて、自由にOS部分をカスタマイズできます。

一方でエンタープライズ向け汎用ソフトウェアとして商品提供しているRHELことRed Hat Enterprise Linux (& 無償部分だけを取り出したCentOS)は、OpenShift側のニーズだけでカスタマイズする訳には行きません。Red Hatには分かっていたハズですが、さすがにOpenShiftだけで動作する製品を販売するとなると、価格体系がおかしくなってしまいます。

RHELはKVM仮想化機能まで含んでいるので、VMwareだとVMware ESXiと機能的に同等です。そうすると価格も同じにするのが妥当ということになります。でもvSphereをコア商品とすることに成功し、RHELよりも高い商品価格設定でビジネスが成立しています。

競合ベンダからはvTaxなどとコメントされましたけど、RHEL+αな価格だと考えると納得できる価格になる訳です。ソフトウェアの価格設定はハードウェアと違って製造原価だけで決まるものではないので、なかなか難しいです。

ともかくVMwareは独自Linuxを自由をカスタマイズできる上に、さらにVMware TanzuとOpenShiftが機能的には同等となります。しかし実情を知らない者には、Tanzu = 「ただのvSphereのオプション製品」と、OpenShift = 「IBMがわざわざ手に入れようとしたKubernetesプラットフォーム」という立ち位置に見えます。

新たに顧客に売り込む場合、Tanzuの方が販売関係者としては推進しやすいです。正直に言って、私もここまでVMwareがVMware ESXiの価格を維持できるとは思っていませんでした。Red Hatにしてみれば、「状況を予想して賭けに出たけれども勝てなかった」ということかもしれません。

いずれにせよOSは必須製品だけれども、成熟分野なので差を付けにくいビジネスです。MicrosoftでさえWindowsの勢いは落ち着いていますし、そもそもOSビジネスだけで$数B以上を目指すのは辛いです。

今ではGoogleやAppleもLinuxのソースコードを利用しており、IntelやAWSも独自Linuxを提供開始しています。OSでOSSビジネスをするというのは、本当に大変です。Red Hatほどの試合巧者であっても、構造的限界には勝てません。

Kubevert採用は次善策

そして次も止むを得ないことだと思っていますけれども、OpenShiftの付加価値向上策として、Kubevert採用が挙げられます。KubeVirtはKubernetes環境上でVM環境を実現するOSSです。

いやKVMをベースに機能するので、OSSだというのは微妙かもしれません。ともかくいずれにせよ、KubevertはKubernetes上で稼働します。OpenShiftで提供するVM環境だから、アーキテクチャ的にそのようになっているのは分かります。(KVMを切り出したRed Hat Virtulizationは上手く行きませんでしたし)

しかし一方でVMwareは、独自Linux上でKubernetesを動かすようなアーキテクチャにしました。そのKubernetesと既存vSphereを組み合わせて、新vSphereとして商品化して来ました。

このアーキテクチャでももESXiと同じく、Kubernetes(新vSphere)の必要に応じて、自由にVMware独自Linuxをカスタマイズできます。だから機能的にVMware有意な状況を作りやすいです。

Kubernetes上でのみVMを実現しようとすると、どうしても無理が出て来ます。しかしOpenShiftにESXi的なKVM機能を加えても、OSSベースなので見抜かれてしまいます。

そうするとユーザとしては、「KubeVirtは必要ないので在来OpenShift部分だけを安く使いたい」と考えたいところです。そしてVM機能利用という観点では、「VMware ESXiを使えば良いじゃないか」ということになります。だから「OpenShiftのKubernetes上でVM機能を提供するKubevirt」という選択肢しかビジネス的に残っていません。

そもそもOS屋がPaaSにまで進出するのは "アリ" ですけれども、仮想化はPaaSとは別分野の技術です。その点でVMwareはPivotalを独立子会社として切り分けて育てており、その選択は妥当であると言えます。

つまりRed HatがKVMをRHELに含めて提供して来た時点で、現在に至るシナリオは決まっていた訳です。仮想化ビジネスで生き残って来たVMwareを叩きつぶせなかったRed Hatとしては、これから高い代償を払うことになりそうです。

(すでに年間売上や時価総額で倍以上の差を付けられているのが、現状を物語っていると言えるかもしれません)

まとめ

以上の通りで、Red Hatに対してVMware優位という図式が出来上がって来ました。Red Hatを買収したIBMとしては、なかなかIBMの計画通りに物事が進まなかったことに困っていることでしょう。

(そういえばIBMには、Watsonのヘルスケア部門スピンオフのウワサ記事も登場しています)

IBMによるRed Hat買収を世間がどのように評価するかに関係者が注目していましたけど、結果としては芳しくないようです。ホワイトハースト元CEOも、Red Hat CEOの座を後進に譲っています。

ただしVMwareにしても余裕で笑いが止まらない状況とは言えません。現在はデータ仮想化によるデータサイエンティストの価値向上が注目されています。そうでなくともクラウドが勢いを増しており、VMwareとしては「ここでRed Hatとの競合に決着をつけて売上を全取りする」と意気込んでいるいるかもしれません。

さてその一方でKubernetesの開発の中心となっているのは、最も開発者や資金を提供しているGoogleとなります。そのGoogleはデータ仮想化でDatabricks(Spark OSS開発元)と協業発表しており、プラットフォームベンダは上手く食い込んでいく必要があります。

Red HatはIBMと組んでしまったので、この点ではIBMクラウド優先で行かざるを得ないでしょう。ここら辺も、ちょっと辛いところです。

それでは今回は、この辺で。ではまた。

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記事作成: よつばせい