QLC型ストレージの将来性と、Pure Storageの賭け

さてMeta (Facebook) の最新AI Research SuperCluster (RSC) は驚異的だけれども、部品提供するPure Storageも、驚異的な存在だったりする。

何しろ新興企業とはいっても、初めて本格的にQLC型ストレージ装置FlashArray/CCを市場投入した。今のところPure Storage以外では、本気で販売している企業は存在しない。「とりあえず製品化した」という程度に過ぎない。

ところでそのFlashArray/CCだけれども、恐ろしいほどの低価格だ。知り合いのKさんが「何でこんなに安いのだろうか?」と首を捻っている様子を伺っているうちに、ちょっと恐ろしいことを空想してしまった。

今回はその「恐ろしい空想」である、”QLC型ストレージ主流化説” を紹介させて頂くことにする。

低価格のFlashArray//C

Pure StorageのFlashArray//Cは、QLC NANDを採用している。だからFlashArray//Xよりも低価格となる。

NANDとはフラッシュメモリー構造の1つであって、高い集積度で安価に大容量化できる。SSDなどのストレージに採用されている。当初のNANDは1セルに1ビットしかデータを保持できなかったけれども、今では4ビットを保持することが出来る。

  • SLC(Single Level Cell)
  • MLC(Multi Level Cell)
  • TLC(Triple Level Cell)
  • QLC(Quadruple Level Cell)

もちろん4ビットのデータを保持できるといっても、しょせんは1セルだ。いろいろな課題が存在する。まず書き込み処理が遅くなるし、寿命も短くなる。1セルに4万回書き込む場面と、4セルに1万回書き込む場面を想像してみて欲しい。

当然、1セルに4万回書き込む方が、寿命は短くなる。それからQLCがデータを保持できる期間も、そのままではSLCより短くなる。イメージ的にはフィギュアスケートの4回転ジャンプに似ている。恐ろしく難易度が高いのだ。

それはどうして各社がQLC NANDの開発に積極的に取り組んでいるかというと、同じデータ量であっても取り扱いセル数が減少するので、消費電力の低減を期待できるというメリットがある。同じサイズならば4倍のデータを扱えることから、省スペースも実現できる。

そしてQLCがSLCと比べて遅いといっても、HDDに比べれば高速だ。耐久性に関しても、SLCをキャッシュとして用意してやれば、QLCへ読み書きする回数を減少させることが可能だし、性能も向上する。

かくして「打倒、HDD!」という旗印の下、各社はQLC開発に取り組んでいる。1セルあたりの製造費用が同等だったら、理論的には、QLC NAND価格はSLC NAND価格の25%になる。TLCと比べても、25%ほど安くなる。

こういった事情があって、現在では一部のHDDストレージと同等の価格帯にまで、QLCストレージの価格が下がって来た。特にQLCの技術開発に関しては、Intelとマイクロンが積極的だ。

ここら辺を見越して、Pure StorageはQLC大量購入や調達先選定などによって、FlashArray//Cの低価格化を実現している。CEOが決算報告会でアナリストへ2021年5月に説明したところだと、FlashArray//Xの約30%程度の低価格化を実現しているそうだ。

基本的に電源装置や筐体シャーシなどはFlashArray//X用を全て流用できたもので、QLC向け処理アルゴリズムなどのソフトウェア開発費への投資程度で済んだとのことだ。

そしてこうやって「低価格なFlashArray//C」というイメージが、ストレージ関係者の共通認識となって来た。

用途と恐ろしい空想

さてそんなFlashArray//Cだけれども、最近は恐ろしい用途にまで手を出し始めている。

参考資料のASCII誌にもあるように、QLC型ストレージ装置がHDDに取って代わろうとしても、1セルに4ビットデータを保持するという制約は大きい。どうしてもOS向けSDDは、まだSLC NANDのSSDなどに任さざるを得ない。

そこでHDDを置き換えるといっても、大容量の動画データを保存するとか、超大規模AIシステムのbulk storageといった用途になる。ちなみに動画データといえば、国内の動画配信サービスでFlashArray//Cを「大人買い(大量受注)」したところがあるとのことだ。

そして昔からPure Storage製品を利用しているServiceNowは、バックアップ用にFrashArray//Cを購入した。このあたりまでは、Pure Storageが2019年のFrashArray//C発表時に想定していたユースケースであり、ASCII誌でもQLC型SSDが、いずれHDDに取って代わることを予想している。

“特に2.5インチSATA接続の大容量SSDがHDDと遜色ない価格になれば、NASなどにも活用できるだろう。最近は2.5GbE LANが普及しはじめ、より高速なLAN環境を構築する時代になってきている。その速度を活かすにもSSD NASが有効で、Crucialには大いに期待したい。HDDに引導を渡すときが、もう目の前に迫ってきている。” ASCII誌

ところで… ここで話は終わらないのだ。Pure StorageはNetAppやIBMと対照的に、売上を着々と伸ばし、さらに低価格化を推し進めて来ている。

いくら「他社よりも機先を制して、QLCストレージ市場を席捲する」というアイディアや、QLC NANDの仕入れ先を工夫しても、低価格化には限度というものがある。

いったい、Pure Storageは何を考えているのだろうか。単にMetaのエクサバイト規模ような超大型案件を、続けて受注しようと狙っているのだろうか。

そこで気になるのは、日本国内のPure Storage国内販社の動向である。ネットワールドなどでは、プライマリストレージがHDDだった場合には、FlashArray//Cへ切り替えてしまうことも提案している。

たしかに1セルで4bitデータを保持するのは技術的難易度が高く、現時点のQLC型ストレージはHDDに圧勝しているとさえ言えない。しかしIntelやマイクロンがQLC NAND開発を積極的に推進しており、日進月歩で性能も信頼性も向上している。

そしてPure StorageがQLC NANDを利用して、見事にFrashArray//Cを製品化した。そういえばドタバタして情報収集できていないけれども、FlashArray//CはFlash Memory Summit 2020において、見事に表彰台に立ったとのことだ。

もちろんSLC、MLC、TLCが消え去ってしまうことは無いだろうけれども、QLCは1セルに4bitデータを保持できるという優位点を持っている。MetaのRSCにFlashArray//Cが採用されたように、省スペースと省電力はQLC型ストレージにしか実現できない。そして性能/信頼が向上すれば、大幅な売上増加を期待できるかもしれない。

そんな訳でQLC NANDは、僕のような門外漢にさえ、動向をウォッチしておくべき要注意製品のように見えるのだ。空想を通り越して、妄想に近いかもしれないけれども、実際このような優位性を伸ばして、最終的に勝利したサービス/商品は山ほど存在する。

なお外付けストレージ装置のベンダ各社は、もちろん僕程度が考えつくようなことは検討済みで、今も着々と製品開発を進めているという可能性もありそうだ。だからこそPure Storageは、FlashArray//Cで先制攻撃を仕掛けようとしているのかもしれない。

ともかく、当分はFlashArray//Cから目を離せそうにない。

まとめ

以上の通りで、QLC NANDとQLC NAND採用製品は、大きな可能性を秘めていると空想できる。そして技術屋というのは、こういった「風向き」に敏感であって、QLC NAND技術の改良と商品利用が一気に進むという可能性もある。

今も多くの技術者がQLD NANDやFrashArray//Cの改善に取り組み、成果を上げている。そういえばFrashArray//C、昨年2021年中頃に、Evergreenとか99.9999%保証の対象製品になっている。

それにしてもQLC NANDの前にSLC NANDを設置してキャッシュに利用した製品は、果たしてQLC NANDデバイスの範疇に含めても構わないのだろうか。いずれにしても、当面は技術革新がホットな分野になりそうだ。

それでは今回は、この辺で。ではまた。

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記事作成:小野谷静 (科学ライター)

[参考資料]