IT物語

Pure Storageが取り組んだ、販売組織の作り直し

さて今の段階でも株を購入しようか迷っているPure Storageだけれども、実は昨年2021年から販売組織を作り直している。旧組織を解体し、新たに新設している状況に近い。

うまい例え話を思いつけないけれども、マンションを電話セールスする営業担当者から、駅前で宗教団体への加入を勧める勧誘メンバーになったようなものだ。

うーん… 僕の下手な例え話よりも、具体的な内容を説明した方が良さそうだ。少し長くなるかもしれないけれども、お付き合い頂けると幸いだ。

販売組織とは何か

営業部門にとっては常識的な話だけれども、ITベンダーとかメーカーは技術者比率が高いので、販売組織のことを知らない者が多い。だから改めて説明することに…
と、言いつつ、実は僕も販売組織のことは詳しくない。

[工場] -> [営業] -> [販社] -> [ユーザー] (最終需要者)

この程度の図を描くのが精一杯だ。
矢印はパソコンといった、コンピュータ機器の流れを表わしている。僕の工場だと、出荷ルートだとか、商流とも呼んでいる。
しかしこの図には、致命的なものが二つ欠けている。

一つはユーザーが工場の生産品を買いたいと思うようになる「キッカケ」だ。
これはマーケティング部門が広告を打ったり、営業が自ら幾つもの会社を訪問して、資料を受け取って頂いたりして、商品に興味を持って頂くところから始まる。
(今までおつきあいのない会社へ突撃するのは、「飛び込み営業」と呼ばれるらしい)

会社や自宅の電話に、不動産やお墓の勧誘電話を貰った人も多いだろう。こういうのは一般的に会社内から電話をかけたりするので、「インサイドセールス」と呼ばれている。
よろしくない事例だと、学校の卒業名簿を買い取って、そこに掲載されている電話番号へ、電話をかけまくる会社も存在する。
たとえ99人に断られても、1人でも購入まで至れば、高額資産だったら十分に投資分を回収できる行為なのだ。
かくして今日も、多くの人々が電話やメールでのセールス活動に勤しんでいる。

そして商談が進み、いざ購入検討という段階になると、営業部門が見積もり依頼を受領&作成して、契約書へのサイン(発注)で商談成立となる。
ちなみにお金が動くことなので、会社で正式に業務として認められたものしか、営業行為はできない決まりになっている。

とりあえず僕たち素人は、「モノ(製品)」、「宣伝」、「見積もり」、「注文」、「売上」だけ覚えておけば良いだろう。

ともかく単純に注文を頂いて伝票処理するだけが営業の仕事ではないので、状況に応じて小まめに組織活動をコントロールする必要がある。HPEなどでは、社長交代後に営業3部門体制から5部門体制への組織変更なども実施している。

1つでも多くの案件を受注するため、少しでも多くの潜在顧客にリーチして、商談の機会や規模を大きくする。正直言って営業職とは、コミュニケーション力や意志力の弱い僕には、とても務めることが出来そうにない職種である。

(営業部隊の中へ技術支援者として送り込まれて、その大変さを痛感させられたものだ。そういえばVeritasには “技術営業” という職種も存在していた)

詰め寄られるクラウド担当

さて製品やサービスを開発する工場側だからといって、販売組織の構造や活動状況は軽視できない。少しでも把握しようと努力していないと、大変なトラブルに遭遇してしまうこともある。

営業というのは、基本的には締結された契約書に記された金額の大小で評価される。だからいつでも解約自由なクラウドという商品体系は、高額なマンションや墓石を販売するような売切型の商品体系とは根本的に異なっているのだ。

“例えば我々が初期のころ、クラウドにしたら無駄なITコストを削減できてスピードも早いし、めっちゃいいですよってAzureの提案をしてオフィスに帰ってるとですよ、担当の営業さんから怒られる。「なんでお前そんな事言ってくるんだ。普通にライセンス売りならゼロひとつ多い売り上げを見込んでたのに、これどう穴埋めしてくれるの」みたいな。”

特に米国の場合は成功報酬的な側面があるし、営業成績が良くないとレイオフの対象になってしまう。日本でさえ上記のような展開になるのだから、さらに大変だと言えるだろう。

新興企業であるPure Storageなどは既存顧客が10,000を超えた程度だから、頑張って新規顧客を開拓しないと、売上を伸ばすことが出来ない。営業担当者にしては、既存顧客を定期訪問するだけでは、高い成績評価を維持できない。

だから「営業」の代わりに「ハンター」という社内呼称を採用しているようなPure Storageは、クラウドやPure as a Serviceのような案件獲得であっても、きちんと評価される営業システムへ “大変更” を実施した。日本マイクロソフトも同様だ。

世の中がクラウドへシフトしていても、営業には直接的な影響のある話ではない。既存営業として大切なのは、金額の大きな案件の契約書サインによって業績評価され、自分に対して給与が支給されることなのだ。

この根本的な営業システム部分を見直さない限り、営業は工場に協力してくれるものの、100%の本気までは出せない。クラウドビジネスとか月額契約ビジネスというのは、従来とはビジネスモデルが根本的に異なっているので、構造的に仕方のない話なのだ。

Web型セールスの難しさ

さて難しいのは、クラウド型で受注した案件の成績評価をすることだけではない。

そもそも自社のWebサイトで商品やサービスをオンライン販売したり、Amazon Market Placeへの出展物が受注した場合、「それは誰の評価になるの? 誰が注文を処理するの?」という問題がある。営業職でないと、注文を処理できない決まりだ。

そして例えば営業Aさんが製薬会社BにAmazon Market Place上での月額課金型BIソフトウェアを提案してオーダーとなった場合、「営業Aさんの営業成績を誰が評価するのか」という問題もある。

従来の販売部隊は、ここら辺を割り切っていた。
二系統の営業商流で受注可能な場合、お互いに調整をしてどちら側が受けるかを決め、それに基づいて契約書サインを獲得した者が評価されるようになっていた。

しかしクラウドの時代では、誰が注文に貢献したのかということは、目に見えないことも多い。おまけにAmazon Market Placeに注文が入ったとして、誰がその製薬会社の注文を処理するのかという問題もある。
流通営業?
それとも製薬会社の担当営業?

そもそも、営業ごとにAmazon Market Placeアカウントが存在している訳ではないし、Amazonから自動的に社内へ注文伝票が送られて来るような電子的な仕掛けもない。
また場合によっては輸出案件に該当し、該非判定が必要になるかもしれない。
(営業では見積もり前に取引先審査を実施したりして、信用度調査も実施している)

さらに複雑さに輪をかけるのが、販社の存在である。
販社経由で注文があった場合、いったいどうやって販社を評価し、リベートなどを提供するのかという問題も生じて来る。
だから「我が社はクラウドビジネスを推進します」というのは簡単だけれども、本当に実運用まで実現させるのは超大事業なのだ。

そして営業サイドは、わざわざこういった問題を工場の製品開発者や幹部へ伝える義理はないので、往々にして放置されがちになる。

おまけ言ってしまうと酷かもしれないけれども、既存ITベンダのクラウド的ビジネスの売上は、それほど期待できそうにない。だから上記のような状況が分かっていても、なかなか見直しに手を付けにくいというのが実情である。

つまり以上の通りで、Web型ビジネスというのは、一筋縄では行かないのである。
(大企業には向いていないので、むしろ関係/系列会社に一任するとかした方が、社内政治の負担も減るかもしれない)

しかしこのような大問題に対して、Pure Storageは構造改革に取り組んだ。
そして2022年1月には、NetApp (2022年5月開始予定) に先駆けて、販売パートナー制度もクラウド対応へと見直しを実施した。

このプレスリリースを今までの流れを知らない者が読むと、理想的かつ抽象的であり、そして表面的なことしか書いていないと解釈できるかもしれない。
しかし2021年5月に販売制度を見直し、Pure as a Serviceを受注したパートナーには、つまり、最小構成の3年分の貢献費を提供するようにしたこと等を知っていれば、Pure Storageが本気でクラウド/SaaS型ビジネスへ舵を切って来たことが推察できるだろう。

かくして世界は一般の人々の気付かないところでクラウドビジネス(期間課金型ビジネス)へと徐々に変貌を遂げつつあり、気がつけば本やビデオの購入も、今では月額払い(もしくは年間一括払い)のAmazon Primeへ依存度を高めていたりするのである。

まとめ

以上の通りで、Pure Storageは販売組織を作り直した。おそらくは、今でも継続している。年間売上$2B程度の新興企業だから売上影響額が小さいとはいえ、経営幹部たちは緻密にして大胆な決断を下したように見える。

果たしてIBM、Dell、HPEなどといった既存ITシステムベンダが、Pure Storageのように大胆な決断を出来るかどうか…

いずれも優秀な分析スタッフを抱えている大企業なので当然気づいているハズだが、いざ決断するのは難しい。何しろまだ、若干の下降傾向とはいえ、従来ビジネスを維持できているのだから。

ともかくPure Storageは、「やった」。あとはこれを見て、競合他社がどのように動くかを見極め、自分たちがどうするかを胆決めすることが大切だ。

それでは今回は、この辺で。ではまた。

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記事作成:小野谷静