[まとめ記事] マルチクラウドへ向かうIBM

ぱくたそ素材

さて2020年中旬頃から、IBMは本格的マルチクラウド対応(顧客満足度の最大化を優先)を進める意思があるようだとレポートして来ました。

ちなみにDellやHPEは、未だに「なんちゃってマルチクラウド対応(本音は自社サーバ/ストレージ受注を優先)」を推進しています。

両陣営の最大の相違点は、顧客課題への対応能力です。ITにおける喫緊の懸案事項は、どのようなシステムが良いかを検討するSIと継続的改善作業への対応です。ハードウェアの選択や接続性は、多くは些末な問題に過ぎません。

もちろん些末であっても、課題は課題です。受注に影響します。しかしSIや運用部分が片付かないと、ハードウェア選択のところまで話が落ちて来ません。

つまりハードウェアは何かを実現するための部品ですが、顧客ビジネスにおいて、顧客視点からハードウェアをどのように位置づけるかという相違になります。顧客ビジネスから重要な部分から潰していくIBM/Pure Storageと、基本的にエコシステムに重要な課題の解決を丸投げしてハードウェア中心に専念する両社の相違とも言えます。

だからどちらが良くて、どちらが悪いかという話ではありません。ただし今回は、自社ハードウェアを保有するのにマルチクラウド対応を推進するIBMの最新動向をお知らせしたいと考えています。

IBMとNewCo

IBMはNewCoの分社化を発表しました。NewCoは連結決算の対象外であり、両社を合わせた売上は従来以上となることが期待できます。無事に新CEOも決まりました。2021年末までの分社化に向けて、少なくとも対外的にはスケジュール通りです。

決算発表ですが、数字に関しては予想通り(前年比5%減)です。分社化の影響が生じるのは、まだまだこれからの話となります。

また新体制に向けた人員体制のスリム化や、相変わらずM&Aなどによって苦手分野AIの強化を図っています。

そして現段階でもAWSというキーワードでIBMサイトを検索すれ分かるように、IBMはAWSのソリューションパートナーであることが分かります。ただし2020年6月記事のように、IBMはIBM Cloudを特定分野向けに推進する可能性があるというIBMウォッチャーも存在します。

“結局、質問の核心部分については「分からない」と明言を避けられてしまったが、パブリッククラウド戦略の一端が垣間見えたのではないか。つまり、Amazon Web Servuces(AWS)やMicrosoft Azureといったメガパブリッククラウドと同じ土俵ではなく、特定の領域ごとにIBMのパブリッククラウド「IBM Cloud」を生かしていこうという考えのようだ。”

SIの強化

さて上記のIBM動向に加え、最近は新しい変化も観測されています。

“IBMはこのところ、「Amazon Web Services」(AWS)や「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform」(GCP)をまたがるクラウド配備の管理ソリューションを手がける企業を買収してきている。”

上記記事のように、IBMはマルチクラウド管理を推進しています。そのためにTaos、Nordcloud、7Summitsなどが買収されました。

上記は昔ながらの認証プロバイダーやSalesforceインテグレータ中心ですが、同時にKubernetesに特化した動きも存在します。

“これまではどちらかといえばオンプレミスでのインフラストラクチャー実装を指向していたOpenShiftだが、Red Hatのマルチクラウド戦略から大手のパブリッククラウドベンダーとも密接に協力して、どのような使われ方でも同じユーザー体験を提供できることように準備を進めてきたことが理解できる。ここではAWS、Microsoft Azureでのネイティブな実装に加えて、IBM Cloudでの実装や、「OpenShift Dedicated」と称されるパブリッククラウドベンダーではなくRed Hatが管理するマネージドサービス(これはAWSとGCPの上で実装)、そしてユーザーのデータセンターにおけるオンプレミスのOpenShiftが紹介された。パブリッククラウド、マネージドサービス、そしてオンプレミスと、エンタープライズが求めるあらゆる実装方法を網羅していることに注目だ。”

またIBM Cloud PakではIBM Cloud Sateliteに続いて、2020年6月には京セラを受注例として、IBM Cloud Pak for Data3.0が発表されています。

IBMとOSS

さてマルチクラウドでもソフトウェア、つまりエコシステムやOSSの重要性は変わりません。IBM Cloud Pak for Dataのパートナー紹介ページを見ると、下記の3社の名前が上がっています。

  • MongoDB
  • Portworx
  • Datameer

ちなみに今回初紹介のDatameerはApache Spark OSSをベースにしています。かつてIBMは自社でもSparkを提供し、$1B投資を宣言しました。

そういえばHadoopを気にする人がいるかもしれませんが、現在の分散システムはHadoopを必要としなくなりつつあります。HadoopベンダはAI方面に舵を切り、2019年後半からHadoopはメンテナンスモードに移行しています。(HortonworksとClouderaの合併に伴い、OSS開発者も半分に減っています)

Hadoop

一方でSparkは爆発的ブームが終わったものの、着実な開発が続いています。ちなみにいずれの図も、縦軸の数字は採用コミット件数を指しています。

Spark

しかし最近のIBMは厳しい状況を迎えているようで、Googleと比較するとRed Hat以外の動きは静かになっています。というか、マルチクラウド対応は一社では困難であり、自社営業部隊をリストラしてエコシステムへ$1B投資する… ようにも見えます。

まとめ

マルチクラウドやハイブリッドIT対応をというと聞こえは良いですが、「大規模複雑システムを一社で独占したいという願望をどこまで実現できるか」という冷たい見方も出来ます。

AWSは上位層やSIはパートナーに任せながら、総合ITベンダ化を進めようとしています。そして既存ベンダでAWS親和政策を取っているように見えるIBMも、パートナーを重視する方向で進めて来る可能性がありそうです。

Pure Storageは素直にAWSに呑み込まれる事業戦略のように見えますが、多数の既存顧客を抱える主要ベンダは簡単にPure Storage戦略は模倣できません。間接販売と直販のバランスを取るなど、今後も経営陣への負担は続きそうです。

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記事作成:よつばせい