メタバースとITソフトウェアやハードウェアまでの距離
最近ではメタバースという流行語が飛び交っている。その検討に参加した若者がいうには、「いやあITソフトウェアやハードウェアまでは距離があると感じました」とのことだった。
ITシステムを開発するアプリケーションSEとハードウェア/ソフトウェアの距離は確かに大きい。例えばこのWordPressブログを開設する時にも、ソフトウェアはともかくハードウェアのことは全く気にしなかった。
だから最初に話を聞いた時には自然に納得したのだけれども、「距離が遠いって、本当にそうなんだろうか?」と自問するようになった。ひねくれ者なので、こういうことを素直に受け入れるのはプライドに関わるのだ。
で、メタバースほどソフトウェアやハードウェアとの距離が近い存在も珍しいと感じるようになった。今回はそこまでたどり着いた道程を紹介させて頂きたいと思う。
今ある素材をどう料理するか
まず若者が参加していたのは、あちこちの部署から呼び集められた者たちで構成されたワークショップだった。議論の中心は、メタバースを導入して売上を立てる方策を検討していたらしい。
ああなるほど、である。
これではITソフトウェアやハードウェアとの距離感を感じるのも無理はない。なにしろメタバースというのは、一つの世界を構築することである。ゲームソフトを想像すれば、世界観からルールやマナーを経て、プレイヤーとしての動きに至るまで、やることは山ほどある。
売上を得る方法だって、一つじゃない。ゲームの中で広告を流したり、有料アイテムを用意したり、仮想通貨でやりとりするなど山ほどある。ゲームの攻略方法を紹介するのだって、今ではビジネスとして成立する。
だから考えることは山ほど存在しており、そのためにITハードウェアやITソフトウェアのことまで気にしている時間がない。特にチームで検討する場合は、昨今では顔を合わせて相談する時間も限られている。
たとえばFGOという世界は現実的な世界を想定しているけれども、世界の殆どは消え去っているという設定になっている。その消え去った世界を取り戻すことを目的としたゲームだったりする。
ゲームの中の自然現象も、ゲームとして論理的に矛盾のないように考えられている。したがってFGOゲームが稼働しているハードウェアやソフトウェアのことなど、全く気にならない。
またFGOというのは、幾つものゲームに分かれている。現時点では第一章から第七章まで存在する。それぞれに舞台が設定されており、プレーヤーはその中でプレイすることになる。
次にどんな展開が公開されるかはワクワクして待ち焦がれるけれども、「どんなゲームになるのかを想像して待ち焦がれる」ことになる。つまり、プレイヤーが構想して、それそゲーム主催者が採用することも可能だ。
いわゆる「既に現在も存在している素材をどう料理するか」である。ある程度は決まったルールの中で、新章を構想することになる。これは誰にとっても自明だろう。
そうやって新章のことを考えれば、ITハードウェアやIソフトウェアなど、何万光年も先の話に感じられてくる。
素材をどう用意するか
ただし勘の良い方は気づかれたかもしれないが、すでにここに至るまでの間に、実はかなりITソフトウェアやハードウェアが影響しそうな話が含まれている。
まず「現在ある素材」ということは、「既に構築済みのITシステム」となる。既に出来上がったITシステムを考える場合、基本的にITソフトウェアやハードウェアのことを考える必要がない。
つまり既存のゲームで物事を考える場合、たとえゲームを作り上げる場合に必要となるITソフトウェアやITハードウェアのことを考える必要が無くなる。メタバースも全く同じである。
既に存在するメタバースを駆使して、メタバースで売上を得る方策を考える場合には、わざわざITソフトウェアやハードウェアのことを考えなくても良い。考えても良いけれども、先ほどのように「やることは山ほどある」となっている。
ここでわざわざ、そこまで考えようとすると、風呂敷を広げ過ぎて収集がつかなくなってしまう。だからITソフトウェアやハードウェアが関係していても、「見えないふり」をすることになる。
実際にゲームをやってみると分かるけれども、ゲーム端末に要求されるスペックは高い。だから高額なゲーム機も存在する。ちなみに我が家のお嬢さんは、第五世代iPad miniだとメモリも動作速度も限界だとボヤいている。
これはゲームを運営するサーバでなく、ゲームをする者たちの使う端末側で処理する内容が多いために生じる。その分だけサーバやネットワーク性能を必要としないけれども、端末の性能によってプレイヤーの有利/不利が変わってしまう。
それでは端末によってプレイヤーに差が出ないことを考えようとすると、サーバ側で処理をすることになる。そして結果をネットワークで飛ばせば良い。極端な場合は表示画面データを送ってやれば良い。
そうすれば端末の負担を軽くできるけれども、今度はサーバとネットワーク側に負担がかかる… これって、ITソフトウェアとハードウェアが直接的に関係していると言えないだろうか。
ちなみにゲームの種類によっても、ITシステムへ要求される仕様は変わるだろう。たとえば数人しか参加しないゲーム(MO:Many-layer Onlineゲーム)であれば、飛び交うデータ量は比較的… 少なくても済む。
それが演説の集会みたいに超大人数が参加するゲーム(MMORPG:Massive Many-player Online Roll Plyaing Game)だとデータ転送量が飛躍的に増大する。人数が2倍になったらデータ量が2倍になると想像するのは少し違う。n人がn-1人に影響を及ぼすので、データ量はA人の時に比べてA x 2ではなくて、A x (A+1) x (A+2) … といった具合に、とんでもなく増えていく。
2人の間を繋ぐ赤い糸は1本だけれども、3人の三角関係だと3本、4人だと6本、5人だと10本 … と、赤い糸はどんどんと増えていく。多角形の辺数と対角線数を足し合わせることになる。これが1万人になったら… メタバースのインフラを担当するのは勘弁させて欲しくなって来る。
おまけに自動車の運転シミュレーションなどを考えると、応答速度も重要になって来る。もちろん高精度で表示しようとすると、その分だけ描画エンジンに負荷がかかる。
実際にAmazon Web Serviceのメタバース検討資料などを見ていると、現在のメタバースが「妥協の産物」であることや、ゲームの種類… つまりメタバースの種類によって必要ITシステム構成が変わってくることが分かる。
たとえばAmazon Primeビデオは、iPhoneの現行サポート機種であれば、どれでも大差なく楽しむことが出来る。TwitterなどのSNSも同様である。しかしメタバースはゲームの延長といった視点で見ると、ITシステムに大いに影響を受ける存在と言えるのである。
まとめ
以上の通りで、メタバースとITソフトウェアやハードウェアとの距離は遠くない。逆にこれほどITソフトウェアとハードウェアの影響をを受けるITシステムも珍しいといえるかもしれない。
こうやって何をどう見るかで、現実は全く変わらないけれども、自分が当たり前まだと思っていたことが実はそうでないということが分かって来る。もちろん何をどう見ても変わらないこともあるけれども、分析屋としては、ものごとの真相を見逃さないように気をつけていきたいと思う。
それでは今回は、この辺で。ではまた。
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記事作成:小野谷静