[まとめ記事] 「腐ってもIBM」が冷凍保存されつつある件
米国の多くの企業が、2020年の年間業績を発表し終わった時期です。そのせいか、SiliconAngle誌のトップ・アナリストであるDAVE VELLANTEが総括レポートを発行しました。
要約すると「SaaSブームは落ち着きつつあるもの有望で、既存ITベンダも在宅勤務による家庭向け業務環境で堅調なビジネスを続けている」とのことです。
そしてトピックとしてはIBMとGCP (Google Cloud Computing)が挙げられています。腐ってもIBMということで取り上げられているようですけれども、Red Hatを大型買収したものの、クリシュナCEOは引き続き構造改革で奮闘を続けなければ状況にあるとの評価です。またGoogleに関しては、もっと赤字額を増やしてもGCP育成にリソース投入するのが妥当との評価です。
今回は彼の評価を紹介しながら、一企業の市場動向担当者の視点でコメントさせて頂くことにします。
IBM
業界全体の動向に関しては、SiliconAngle誌よりもIDCやガートナーといった調査会社の方が、人海戦術で状況把握できています。こういった各社への面接インタビューに関しては、「数は力」といったところでしょうか。
そこら辺は調査会社にお任せして、さっそく本題のIBMに入りましょう。わざわざ「What about IBM?」と小見出しまで作成しています。
SiliconAngle誌のVELLANTE氏としては「Red Hat OpenShiftは順調だ」と見ており、問題はIBM本体の経営にあると評価しているとのことです。NewCoと分社化したり、Waton Health部門のスピンオフ検討など、全社構造の見直しを図っている最中とのことです。
たしかに新CEO任期は2020年4月に始まったものの、IBM全体の組織改革は数年前から継続的に推進されています。変化の激しい昨今のご時世だと、「まだやっているのか」と株主から言われそうです。
なお私に言わせると、OpenShift自体が「大いなる誤算」のような気がしています。結局のところアプリケーション開発者といっても、個人でテキストエディタを作成するようなフリーランス開発者は稀です。
大半がOSS開発者のように、企業の業務としてアプリケーション開発をやっているのです。そしてPaaSフレームワークにおいてRed Hatは単独推進しており、多くの企業が参集して “Foundation” が結成されたのはPivotal Cloud Foundry (VMware Tanzu) のSpringOne部分です。
そもそもIBMのNewCoは、アウトソーシングでアクセンチュアと競合するような存在です。分社化によってイメージが改善されるかもしれませんけど、アプリケーション開発者としてはVMware Tanzuに将来性を感じる者が多いでしょう。
こうやってみると私としては、現在はIBM合併効果でOpenShiftがIBM顧客に売れたものの、いずれ頭打ちになる可能性もありそうな気がします。
GCP
さて次はGoogleのGCPです。
Googleは売上の8割が広告収入で、さらにそのうちの8割が検索エンジンに貼り付けられた広告です。その広告がクリックされ、さらに広告主の売上につながることによって広告料金を得ている訳です。
残りの2割は、Youtube動画の広告収入や、企業や個人Webサイトが掲載するGoogle広告による収入です。何にせよ、検索エンジンの利用率は独占的であるので、あとは広告主の獲得や広告売上の改善を通じて売上拡大することになります。
そのためにSiliconAngle誌で紹介されているように、Googleは分析用に巨大データを保有している訳です。Kubernetesのような分散システム開発や、Deep LearningのようなAI技術のブレークスルーを実現したのも、この巨大データセンタの存在を抜かせません。
そしてデータセンタに加えて、Googleは優秀なデータサイエンティストを保有しています。日本でも東大生の青田刈りが有名になった程です。
GoogleのGCPビジネスの売上成長率は、Amazon AWSやMicrosoft Azureを抜いてトップです。ここ2年くらいのGoogleとしてはエンタープライズビジネス強化に向けて、GCPトップにOracle元幹部を採用したり、エンタープライズ営業職を採用しています。
しかしVELLANTE氏は、これでも十分でないと評価しています。もっと広告ビジネス向けのリソースを、GCPに投入すべきとのことです。
なお私が見るところ、Googleの頭の良い人たちは堅実な路線は好まない傾向があります。また急激な組織文化の変更というのは、大変な労力を必要とします。
GCPの数兆円の赤字などは、Googleにとっては大したことではありません。むしろ私の見る問題は、IBMと同じく組織的な改革をどこまで実現できるかにあります。
そしてエンタープライズIT関係者は知らない人が多いですけれども、昨今のプライバシー保護の流れがGoogleの広告ビジネスにも影響しかねない状況です。
AppleとFacebookが争ったように、メーカー側がプライバシー保護を重視すると、広告などに利用できる分析データが減少します。広告紹介ビジネスのピンチです。だからGoogleとしては広告ビジネス以外の収益源確保が重要であり、VELLANTE氏はGCPへの注力強化を促す訳です。
つまりGCPの赤字を騒ぐ人が多いですけれども、Googleにとっての課題は「広告以外のビジネスの立ち上げ」となっている訳です。その面でGCPは有力候補であり、引き続き動向が注目されるところです。
まとめ
以上の通りで、企業の組織構造を改造するというのは大変です。これが特にIBMとGoogleに表れているように見えます。
かつて「巨象も踊る」というセリフが流行しましたけれども、巨象が踊ったら骨折します。巨象から人間の集団のように、存在形態を変えて行く必要がある訳です。
私から見るとクリシュナCEOはIBMビジネスを冷凍し、上手に切り分けて有効活用を図っているように見えます。
ちなみにGoogleはMongoDBとのアライアンス強化も発表して来ました。現在のビジネスに近いところでエンタープライズ的な要素の強い企業と連携強化しているという訳です。
Googleは資金力があるので、スタッフにも優秀な人材を揃えることが出来ます。そしてAWSの猿真似をしても、出来の悪いAWSが出来上がるだけです。
なおAWSにしても登場した当時は、既存のエンタープライズからは相手にされない存在でした。それが開発者の支持などにより、現在の姿にまで成長した訳です。
他人の顧客を横取りしながら新規顧客を獲得する …. それも、売上規模の差は数倍です。相当に難しいことです。これは当たり前のアプローチでは実現困難であり、特に現AI(Deep Learning)の核となるNVIDAを中心に、事態が推移することになるかもしれません。(このように見るのは、私だけではないでしょう)
そういえばVMwareも、NVIDIA GPUとVMwareのSmartNIC構想を発表しています。もちろんGoogleは自製TPUに加えてNVIDIA連携強化も進めています。
こういった動きに対して老舗エンタープライズ企業のIBMが挑んでいます。IBMは得意の “AI” で差別化できなくなった訳で、もしかするとIBMクラウドをGoogleに売却するかもしれません。
(既にGoogleクラウドではIBM Powerシステムが動作しています。GCPはメインフレーム向けプログラム開発企業も買収していますし、なかなか興味深いところです)
IBM幹部の大学・高校の後輩たちはGoogleで働いている訳です。以外に2社が組んで、AWSやAzureを追撃するというシナリオも起こるかもしれませんね。
それでは今回は、この辺で。ではまた。
———————-
記事作成:よつばせい