[まとめ記事] シリコンバレーの衰退
シリコンバレーでは、スタートアップ企業への積極投資が続いています。一方でスタートアップ企業の拠点視点で見ると、数年前から世界各地への分散が進んでいます。
この流れは昨今の世相を反映して加速しており、特にフロリダ州マイアミやテキサス州オースチンなどが人気スポットとして有名です。
日本IT企業にとってシリコンバレーは重要であり続けるものの、さらに視野を広げて活動する必要があります。
なおシリコンバレーが伸び悩む大きな問題として、カルフォルニアにおける住環境や税金の問題も存在します。
今回は企業のシリコンバレー以外への拠点分散を、雑誌記事を元にして追いかけてみることにします。
[ 目次 ]
大手企業の動向
今回 “シリコンバレーの衰退” をテーマに取り上げたのは、HPEやOracleといった大手ITベンダも本社をテキサス州オースチンに移動させたことが理由です。
どうして今のタイミングかというと、昨今の世相や大統領選が影響しています。まずラリー・エリソンはトランプ元大統領と親交があり、TikTok問題の時にも救済介入しています。
そのエリソン氏はハワイに所有している “自分の島” への引っ越しを発表しました。そしてOracle本社をテキサス州オースチンへ移転することを発表しました。
もともとカルフォルニアは民主党が盤石であって、自由な気風に満ち満ちています。民主党は防衛関連は最低限とし、さらに弱者を守るために保護貿易を優先しています。歴代大統領は再選に成功するのが一般的でしたが、急激な世界情勢の変化などもあって民主党バイデン大統領の新登場となりました。
その結果は日本でも報道されているように、Uberなどのサービス残業は派遣契約なのでOKと法律変更されました。また米国最高の13.3%という所得税はアップする可能性も生じています。大統領選および上院での民主党勝利で歯止めがからなくなる可能性もあり、顧客維持が重要な既存ITベンダにとって嬉しくない状況です。
そしてテキサス州は昔からIT技術に長けた企業(DellやBMC Software)やNASAなどの先進組織が存在し、テキサス州立大学は全米27位にランクインされています。テキサス州民であれば学費優遇されるし、地道にコツコツやるタイプの企業/技術者に歓迎される土地柄です。
そしてオースチンはITシステム管理ソフトウェアにとっては技術者が集まる土地です。IBMが昔買収したTivoli(JP1競合)はオースチンが本社でした。昨年末にセキュリティ問題で世界を騒がせたSolarWinds社もオースチンに本社があります。
そして米国南部ではあるものの国境を他国と接しているということもあり、移民に対する抵抗感は緩やかです。IT企業に限らず、トヨタ、三菱重工、パナソニック、クボタ、ダイキン、Appleなどが本社をテキサスに移しています。
テキサス州はカルフォルニア州とは対極的に、テキサス州民を優遇する方針を採用しています。そして企業誘致のために税制制度も工夫しています。
カルフォルニア州のように成功者から高負荷の税金を取って、それを留学生にまで還元するような発想はありません。逆にテキサスに腰を据える企業に取り、テキサス州は魅力的な土地なのです。
ちなみにこれはテキサス州に限った話ではなく、フロリダ州なども同様です。
スタートアップ自身の認識
さて一時期のIT系スタートアップは、シリコンバレーに拠点を構えることが重要でした。現在もそうですけれども、資金調達に有利なのです。
これらの記事で紹介されているように、シリコンバレーには有力投資家が集まっています。そして「50マイル(80km)」原則があるように、やはり「必要に応じて相手と会える距離」というのは重要です。
また執筆者の語る通りで、イベント後の打ち上げ時における「ざっくばらんなビジネス・ディスカッション」は重要です。「飲みにゅけーしょん」というのは日本だけの文化ではありません。(単に同僚と仕事帰りに飲むことはないだけの話)
だから一時期のようにイナゴの集団のようにスタートアップへの出資金を持った者が集結することは無くなりましたが、相変わらずシリコンバレーが重要拠点なのは確かです。特に昨今はIPO前に力を貯めるために大量資金を必要とする企業への投資が大企業で盛り上がっており、その代表株であるCiscoはシリコンバレーが拠点です。
したがってシリコンバレーは、今後もスタートアップや大手ITベンダが終結する場所であり続けることでしょう。
ただしシリコンバレーは存在意義を持ち続けるものの、従来のような急激な成長は見込めないでしょう。それを解説しているのが、上記の2記事です。
マイアミはソフトバンクが$1B投資を発表したことにより、現在は世間的な注目スポットとなっています。しかし専門家に言わせると、「だからといってシリコンバレーのような存在になることを期待するのは話が違う」とのことです。
今まで顔と顔を合わせてやり取りするのが重要だったビジネスミーティングですが、昨今の世相を反映して変化しつつあります。活動履歴の確認などを重視して、ビデオ会議で初対面する時には調査済みデータを元に会話を始める… そういったスタイルが普及しつつあります。
シリコンバレーの存在意義が急激に無くならないように、この新しいビジネス開発のアプローチも着実に根付きつつつあります。つまり場所を重要としないビジネス・スタイルです。
したがって現在のスタートアップはステルス(隠密行動)モードから脱すると、LinkedinやYoutubeで活動状況を積極アナウンスするようになっています。日本では漫画家などが制作風景をオンエアする試みが始まっていますが、これと似たよう動きがITでも、さらに全世界規模で始まっているという訳です。
まとめ
以上の通りで、一時期のようなシリコンバレーブームは終わりに指しかかっているというのが、上記記事の関係者達や私の見識です。(「シリコンバレーの衰退」という過激なタイトルを選びましたけど、まあ相対的に重要性が下がって行くという意味です)
ただし日本IT企業としては、このような状況だからこそシリコンバレーは重要な存在であり続けます。顔を合わせてのコミュニケーションが取れなければ、英語や文化理解の重要性は増大します。そして日本人を良く知るのが、シリコンバレーの住人です。
大変ですけれどもシリコンバレーを拠点として注力しつつ、さらに視野を広げて活動する必要が生じているという訳です。
それでは今回は、この辺で。ではまた。
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記事作成: 小野谷静 (おのせい)